生成AIの普及後、弁護士なしで訴訟を起こす「本人訴訟」が米国で急増。2025年度には全体の約17%に達し、裁判所の記録処理件数が158%増加するなど、司法制度への負担が深刻化している。
MITと南カリフォルニア大学の研究者が、生成AIの普及以降、アメリカで弁護士を付けずに訴訟を起こす「本人訴訟」が急増していると報告した。研究者らは、AIが司法へのアクセスを広げる一方で、裁判所の事務負担を大きく増やしている実態を示していると論じている。
研究では、2005会計年度から2026会計年度までの非受刑者による連邦民事訴訟約450万件と、連邦裁判記録システム・PACERの記録約4600万件が分析された。本人訴訟の割合は長年約11%で安定していたが、2025会計年度には約17%まで上昇したことが明らかになった。
増加が目立つのは、特許や証券詐欺のように専門知識が必要な分野ではなく、民権訴訟や消費者信用をめぐる争い、差し押さえ関連の訴訟など、文書作成の型が比較的決まった分野だった。訴状や申立書を整った形式であればAIが容易に作成を補助できるためだと研究者らは推測している。
問題は、見た目が整った法的文書が必ずしも有効な主張を含んでいるとは限らない点だ。ミネソタ州のドナルド・ソーブ氏の事例では、ChatGPTとClaudeを使って作成した訴状や50件の追加書面、判例分析が提出されたが、裁判所は最終的に明確な請求が示されていないと判断した。
こうした事例では、手書きであれば比較的早く退けられた内容がAIによって専門的に見える文書になったことで、裁判所側により多くの確認作業を発生させている。各書面は職員が受理・記録・公開する必要があるため、判事が判断を下すまでに相応の労力がかかる。事件発生から180日以内の記録項目数はAI普及前の平均と比べて2025年には158%増加しており、裁判所が膨大な時間を消費していることになる。
AIの利用は文書そのものにも表れている。研究チームが2019年から2026年までの連邦民事訴状1600件をPangramのAI文書検出で調べたところ、AI生成テキストを含む訴状の割合は2023年の1%から2026年初めには18%に上昇していた。
一方、研究者らは「弁護士費用を負担できない人にとって、AIは法的情報にアクセスし文書の体裁を整える手段になり得る」とも指摘している。訴訟を始めるコストだけが下がれば、裁判所や相手方にかかる処理コストは増える。AIが司法参加の入口を広げる一方で、人間の判断と事務処理に依存する裁判制度の限界が明らかになったといえる。
